鄙乃里

地域から見た日本古代史

蘇民将来と荒ぶる天神 ① ~武塔天神~

 京都八坂神社の主祭神は明治の神仏分離令以後は素戔嗚尊、それ以前は牛頭天王と習合されていた。牛頭天王は疫病を司る神で、蘇民将来の説話がある。
 しかし、牛頭天王以前は武塔(ぶとう)天神の名でも祀られていたという。

  上記の三神は、一般には同一神として認知されているが、この武塔天神・牛頭天王素戔嗚尊の関係はややこしい。


 まず武塔天神は、中国の神話にある西王母東王父の子で、弟の巨旦(こたん)大王とは兄弟であったという。
 そこで、そうだとすれば、その兄弟の居所は母・西王母の伝説地の近くにあったのではないだろうか。そんな想像をたくましくしてみた。

 西王母は秦や漢の時代には広く信仰されていた伝説の神女で、一般に崑崙山の洞窟に住むとされていた。崑崙山は神仙思想における神話の山で、実在する崑崙山脈とは別の想像上の山とされている。そこには三千年に一度花が咲く仙桃があり、その実を食すると長寿が得られるという。奈良県纏向遺跡からも、たくさんの桃の種が発見されている。

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        (外務省 世界区分地図 に位置印を加工)  

 しかし、中国の伝承によると、その場所は黄河源流の西で、タクラマカン砂漠の南、ホータンという地域にあって、玉を産出すると言っている。そうすると、ほぼ崑崙山脈と同じ場所で、その主峰をいうのかもしれない。

 ただ、中国の古い地理書『山海経』では崑崙山脈の北にある玉山のこととされ、神話の崑崙山とは、その玉山を含む大まかな場所を指しているのかもしれない。玉山という山名も玉が産出されることと共通している。崑崙山脈の北麓のあたりは高山から流されてきた玉が出るというので、その原石を探す人でゴールドラッシュのような状況らしい。
 その地には今もホータンという地名がある。現在の中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区の天山南路に昔、ホータンという国があった。シルクロードの要衝でもあり栄えていた。

 このホータンはコータンともいう。コータンと「巨旦」、何かよく似ている名だ。このホータン国がどこまで広がっていたのかは知らない。が、南には崑崙山脈があり、その南はチベット高原だ。そして、その南にあるのがブータン王国。王国の歴史はそんなに古くなさそうだが、ブータンの地名はそれ以前からあったのではないかと思う。このブータンと、「武塔」も何となく似ている。何もそうだというのではないが、よく似ている名だな…と思うだけである。

 その武塔・巨旦の兄弟はもともとから仲がわるくて戦っていたという。巨旦は巨旦将来といい、彼が夜叉国を支配してからは、巨旦大王になったともいわれている。

 日本で蘇民将来説話を広めた人は、もしかしたら、シルクロードを知っていたのかな?


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