鄙乃里

地域から見た日本古代史

雨中のセキレイ

 気まぐれ随想録『赤とんぼ』


  雨中のセキレイ

 

 朝の病院の診療科で順番待ちをしていると、ガラス窓から小鳥が見えた。セキレイだ。外は雨なのに、チョコチョコちょこちょこ動き回っている。

 人なつっこいのか、人間など何とも思わないのか、歩行者の前でも、車の前でもよく見かける鳥だ。何にもなさそうなアスファルトの路面の上でも、平然と遊んでいる。しかも、たいてい一羽だけで…。


 これはハクセキレイだろうか。農業用フレームの外縁のコンクリートに留まってあたりを見回している。外は篠突く(しのつく)雨である。

 ほとんどの小鳥は雨に打たれると、じっと縮こまって動かなくなり、水分を払うため時々、身震いをするぐらいなものである。

 でも、このセキレイだけは尾羽を叩き、両羽を振るわせ、あちらを向きこちらを向き、雨にもまけず相変わらず動き回って、まったく元気な鳥だ。

 コンクリートの上で機嫌よくしばらく遊んだあと、フレームのてっぺんに留まり、それから雨中のどこかへ飛び去ってしまった。


 そのうちに、やがて、この患者にも受診の順番が来た。

 待ち時間の長さを憐れんで、気を紛らわせてくれたのかもしれない。