鄙乃里

地域から見た日本古代史

地の利について

 気まぐれ随想録『赤とんぼ』


  地の利について イメージ 1

 
 店舗を構えるときの大切な条件として「地の利」というものがある。

 先日、車道を走っていると、路側帯に車が長い列をなして停車しているのに出くわした。交差点かと勘違いするぐらいだったが、先頭まで行くと、そこにはガソリンスタンドがあった。ハイオク低価格の看板が目につく。

 人気のスタンドらしく、土曜日のせいもあってか、特に車列が長いのだ。ふだん自分が補給しているスタンドと比べてみると、リッターあたりの価格が12円も安い。50ℓも入れたら、600円違う。少々時間をかけても車が集まって来るのも道理だ。

 その通りを折れて本通りに入ると、少し先にも同価格の看板を出しているスタンドがある。ただ、どうしたことか?こちらには車がほとんど並んでいない。同価格といっても会員制であり、クーポンなどが必要なのかもしれない。

 しかし、よく観察してみると、上記のような違いもあるかもしれないが、何よりも両者の間で場所の違いというのが大きいのに気付く。


 先のスタンドも比較的交通量の多い通りにあるが、大型貨物車が通行するような道路ではなく、ほとんどが乗用車だ。それに対して、こちらは片側2車線の幹線道路で、あらゆる車両が激しく走行していて、路側帯に車を止めるようなスペースはあまりないか、そこに車両が並んだりすると、きわめて危険性が高い。

 したがって車はスタンド内に入り込まないといけない。しかし、スタンド内の広さには限りがある。そのためドライバーは幹線道路を走る車の勢いに気持ちがとらわれて並びにくく、入りにくいのだ。また出るときも入り口に戻る必要があり、出にくい。

 それに比べると先のスタンドは、大型車といえば時たま走る路線バスぐらいなものである。走行速度もゆるやかで道幅にも若干のゆとりがあるため、ドライバーのメンタル面における影響が全然、違うのである。そのうえ低価格でだれでも自由に補給できるとあれば、先のスタンドに車が集中するのも無理はない。補給後もそのまま進行方向に出られるから、他車の通過を待つまでもなく安全である。


 つまり、スタンドに限らず、店には(特に車の場合など)だれもが入りやすく出やすいと感じられる「地の利」というものが存在するわけである。そして、その次に来るのが提供される商品の品質や価格やサービスといったもので、同じ商品なら少しでも安いところ、品揃えの豊富なところ、便利なところに集まろうとするのが消費者の心理なのだ。

 少々並ぶことなど、今日ではそれほど苦にも感じていないようだ。そのため、時間にゆとりのある土曜日の夕方にわざわざ並んでいるのだろうから。日曜日は家族で出かけるもよし、予定がなくても、来週の燃料確保は必要だろう。

 これらをみても、商売で店を出すためには、よくよく場所を吟味しなければいけないことが解る。あらゆる点から「地の利」をよく観察して決定することが大切であり、ただ住宅や人口交通量が多いからというだけで、むやみ物件に飛びつかないようにしないと、統計的な数字に頼るだけの安直な判断は往々にして失敗しやすいのである。

 
 もちろん現在の「地の利」も決して不変というわけではないし、天の利・人の利によっては、そのうち衰退の憂き目を見ることがあるかもしれないが、ただ「店をやりたい」だけの一心から計画性もなく見切り発車を断行するような無謀なやり方に比べると、「地の利」があるだけでも、開店後の成否に大きな優位性が生じることは必定だろう。





                    

平成31年2月1日の記事です)