鄙乃里

地域から見た日本古代史

新元号のアクセント

 気まぐれ随想録『赤とんぼ』


  元号のアクセント イメージ 2

 
 新元号が発表された。

 「令和」…と聞いた瞬間に報道陣が一瞬だまり込んだのは、これまでの元号とは異質で、何か的外れな感じを受けたからだろう。「命令」や「法令」など以外に「令」という文字自体に触れる機会が少ない上に、とくに、それが先頭に付いていたからだろうか。

 「令」が先頭に付く語は「令状」など法律用語とか、「令室」「令嬢」などの敬語があるが、「令状」は「命令状」のことで、「令室」などは頭にたいてい「御」が付いている。形式的な挨拶に用いる以外は、庶民にはほとんど縁のない言葉だ。 

 だから、自分もこの「令」だけを見た瞬間は、ほとんどの人が意味が分からない文字なのに、元号としてはどうだろうかと思ったのである。

 
 しかし、この元号は『万葉集』から採用されたとのことで、原文を下敷きにしてこの元号を読んでみると、なかなか味わい深い内容がある。この場合の「令」の語意は「よい」とか「うるわしい」とか「すがすがしい」とかの意味で、響きもまずまずだから、そのうちに馴染んでくるのだろう。


 ただし「令和」のアクセントの付け方は、基本的には、はっきりさせておかなければいけないと思う。どこにアクセントがあるのか。「礼に始まり」の「れい」なのか、「謝礼」の「れい」なのか、官房長官の発音はどちらにも聞き取れた。しかし、総理の発音は「礼に始まり」のほうだった。

 『万葉集』の同じ文章内でも「令」と「和」はひとつ離れた箇所から一字ずつ取っているので、その点からいえば、それぞれが独立した字だから「礼に始まり」のアクセントでもいいが、「令」と「和」を一語に続けるなら「謝礼」のほうになる。例えば「霊」は単独で読むと前者の発音になるが、「霊峰」と続くと後者の発音になる。大正や昭和や平成は、後者の読み方だ。だから「礼に始まり」のアクセントで「令和」を発音すると、大正や昭和や平成とは違った読み方になる。

 どちらでもいいだろうと思われるかもしれないが、元号はよく使う言葉なので、文字に表せば同じだといっても、実際に事務処理などにおいて口頭で使用する段になるとややこしく感じられるのではないだろうか。大正、昭和、平成の場合は、二通りの発音はしていない。


 「和」の字がまた採用されたことも意外だった。「和」は「和を以て貴しと為す」や日本国や奈良盆地を表す「大和(やまと)」の「和」であり、「平和」の「和」でもあるから、よく使われる文字だが、もう当分の間は採用されるとは思っていなかった。「令」の字は目新しいが、われわれ高齢者にとっては「和」の字は、また昭和に帰ったような気持ちになれるのでありがたい。ただし、軍国主義や戦争は御免だが…。

 いずれにしても、次も平和で調和のとれた、だれもが希望の持てるような時代であることをぜひ願いたいものである。

 

 

 

                    

平成31年4月3日の記事です)
記事内容前回と前後しています。